第58回全国数学教育学会における総会にて,新理事の互選によって会長を拝命いたしました。新しい時代や社会における数学教育学研究を推進すべく,学会員の皆様とともに取り組んで参りたいと思っています。皆様からのご支援を心からお願い申し上げます。
社会がコロナ渦以前の活気を取り戻し,国内外で研究活動が活発になって参りました。その一方で,学校現場ではコロナ渦を経過する中でICT環境での授業や教育研究が不可逆的かつ加速度的に進み,教育に大きな変化がもたらされています。技術革新にともない,新しい時代に応じた算数・数学教育を開発することは重要な研究課題であり,学会としてもこうした面の研究をこれまで以上に充実させていく必要があります。その際,技術面のみが前面にでる工学的アプローチが優勢になれば,数学と人間との関わりを重視する人間学的アプローチは衰微する可能性を孕むことも考慮しなければなりません。むしろわれわれは,人-数学-技術・環境の関係の本性を明らかにする学的基盤を充実させながら,それらの相乗的発展をいかにして実現していけるかを議論し研究を深めていく必要があると思います。新たな教育研究の可能性に向かって皆で前進していけることを期待しています。
われわれの学会は,前身の学会を引き継ぎ,1994年の第1回研究会を開催して以来,今年で30周年を迎えました。これまでに数学教育学研究として,教育材としての数学,人と数学と社会の関係性,数学を教え学ぶプロセスや方法などについて,これらの本質を問い,様々な理論的背景と実践的・実証的研究の両面から追究し,多くの研究成果を導き出してきました。それらは和文学会誌『数学教育学研究』及び英文学会誌『Hiroshima Journal of Mathematics Education (HJME)』を通して,国内外へ発信されています。30周年を迎えたことを機に,現在,本学会が培ってきた知見をまとめ,未来の算数・数学教育の研究と実践に橋渡しすべく,『数学教育学ハンドブック』(仮称)の刊行に向けて学会員の皆さんで取り組んでいます。新しさは過去との対話を通して意識化できるものであり,これを通して数学教育学研究の価値や役割をこれまで以上に理解できる機会になれば幸いです。
全国数学教育学会には,多様な立場の方が協働し,活躍できる様々な機会が用意されています。今後も引き続き,個々の研究発表や共同研究,シンポジウムの開催や海外研究者との交流など,研究の促進とともに国際化・国際交流も推進したいと思います。学会開催時には,研究者と実践者との協働や対話,学問的研究と教職大学院や学校の研究に代表される実践研究との対話,学会に不慣れな方や数学教育研究に興味関心を持たれている大学院生や学校の教員の方々との交流を深めていきたいと考えています。また,全国数学教育学会の公式ウェブサイトがリニューアルされたことに伴って,今後はこうした媒体を通じてさらに研究と交流の活性化を図って参りたいと思います。
学会員の皆様から忌憚のないご意見をいただきながら,新しい時代の数学教育学研究へ共に発展していけるよう,学会運営に努めてまいりたいと存じます。ご支援,ご協力のほど,何とぞよろしくお願いいたします。
令和5年12月1日
全国数学教育学会会長
岡崎 正和